×

[PR]この広告は3ヶ月以上更新がないため表示されています。
ホームページを更新後24時間以内に表示されなくなります。

ある盗賊の憂鬱

 俺は盗賊。名前?名前なんてどうでもいいじゃないか。名前を名乗ったところで訓練場でいつでも好きな名前に変えることが出来る。名前なんてどうでもいい。
 盗賊と言っても人様の物を盗る盗賊じゃねぇ。仕事はもっぱら敵が落とす宝箱をあけること。もっぱらと言ったが100%と言ってもいい。それが俺の仕事だ。
 仕事にやりがいを持ってるかだって?やりがい・・・そんなものは微塵もねぇな。こんなつまらない仕事はない。まあ、世の中には宝箱をあけるのにひぃひぃ言いながらあけるヤツもいるが、それはよっぽど才能が無い盗賊だ。俺はまあ、人並み以上の才能を持ち合わせているので宝箱をあけるのにそんなに苦労した覚えは無い。まあ、たいがいの盗賊なら宝箱をあけるのに苦労しないがな。
 やりがいが無いだけならまだいい。俺は不満を持っている。その不満の種は俺の前にいる僧侶と魔法使いだ。やつらは前衛が体を張って戦っているのに、遠くから適当に呪文を唱えるだけだ。それにもかかわらず手に入る経験値は前衛と同じ。何だこのシステムは!?どうして前衛で体を張って戦っているヤツと、後ろで適当に呪文を唱えているヤツの経験値が一緒なんだ?俺はこのシステムが不満だ。

 さんざん文句を並べたが、実はもっと不満に思っていることがある。それは俺自身だ。僧侶や魔法使いはまだいい。戦闘中に呪文を唱えて味方を回復したり、敵を攻撃することができる。それに比べて俺は何だ?戦闘中ちっとも役にたたないじゃないか!たまに魔法の品を使って呪文を発動してみたら、リーダーから「無駄なことはやめてくれ」と言われる始末。全くもって無能だ。それにもかかわらずレベルアップだけは一番早い。一番無能な俺が一番レベルが高い。なんと間抜けな状況だろう。そんな状況も俺の苦悩をより深いものにしている。

 俺はそんな自分が嫌いだ。

 そんな嫌いな自分を変えるには転職しかない。職を変えてもう一度生まれ変わる。そして新しい人生を歩いていくのだ。
 だが、何にでもなれるわけじゃない。能力的には何にでもなれるが、もし俺が戦士に転職したら誰が宝箱を開けるんだ?そうなったら今のパーティで俺の居場所がなくなる。つまり俺に残された選択肢は一つしかない。「忍者」だ。

 クックック。どうせ冒険者カードなんて誰も見やしない。俺がひそかに忍者に転職してようが誰も気付きやしないさ。

 次のOFFの日。俺はこっそりと訓練場に行き、転職の間で忍者に転職した。転職の間では長い時間を過ごしたが、この世の時間では一瞬だ。

 次の日、俺は何食わぬ顔でいつものパーティに入る。誰も俺が忍者に転職したなんて思っていない。その日、俺はいつもよりも少しワクワクしていた。顔が時々緩みそうになるが平常心を装い、グッとこらえる。

 

 「・・・・・カチッ」
 次の瞬間、宝箱から毒ガスが噴出した。俺がスイッチを入れたんだがな。
 「・・・・・カチッ」
 次の瞬間、警報が鳴り響いた。新手の敵が現れる。俺が呼んだんだがな。

 ん?おかしい。勘が鈍ったか?勘が鈍ったというより的が外れる。毒針だ!と思えば毒ガス。毒ガスだ!と思えば警報。どうにもこうにも罠が当たらない。どういうことだ?罠を探る感覚は今までとほとんど変わらないのだが・・・

 

 そんなことを繰り返しているうちにパーティのリーダーから遂に最後の一言が発せられてしまった。
「抜けてくれないか」
 さすがにメイジブラスターとプリーストブラスターを間違えたのはまずかったか?メイジブラスターとプリーストブラスターが真逆なのは盗賊界では有名な話だ。そんな初歩的なところで間違ったのはまずかったな。俺の盗賊技能は地に落ちたらしい。

 というわけで俺はパーティからリストラされた。俺がいたパーティはその後、レベル3シーフを捕まえて宝箱を開けさせているらしい。ふんっ、せいぜいテレポーターに引っ掛らないようにすることだな。

 まあ、いいさ。これで俺ははれて自由の身となったわけだ。何をするのも自由。案外せいせいしているぜ。とりあえず迷宮をうろつくか。地下2階ぐらいなら一人でも大丈夫だろう。

 俺の目の前にコボルドが一匹うろついていやがる。最初の獲物にはうってつけだ。
 少し近寄るとヤツもこちらを認識したらしい。低く唸りながらこちらに近づいてくる。俺を威圧するつもりか?俺はお前なんて怖くない。

 ヤツが俺に向かって剣を振り上げて向かってくる。ヤツの方がリーチが長い分、先に攻撃してきた。だが、見える。やつの剣の動きが見えるぞ。これが忍者の能力か!ヤツの剣が俺の目の前の空を切る。剣を振り下ろしたのと同時に俺がヤツとの距離をさらに縮める。俺の手刀がコボルドの首元にえぐり込む!そしてそのまま振り抜ける!
 コボルドの頭が胴体から切り離され、天井に向かって勢いよく吹っ飛んでいく。ヤツの頭は鈍い音を立てて地面に転がった。それと同時に体も崩れ落ちる。俺が勝利した瞬間だ!

 これだ。この感覚。これこそが戦い。これこそが経験値を得るに値する行為だ!俺の心は歓喜に満ち溢れていた。

 この日から俺の人生は変わった。



 俺は今、レベル3サムライを相手に戦っている。これが楽し・・・いや、命のやり取りをしているのに楽しいというのは不謹慎かもしれない・・・しかし、戦いの中で俺は最高の時間を過ごしている。

 刀の分だけリーチはヤツのほうが長い。だが、そんな不利な状況にありながら俺はヤツの攻撃をものともしない。ヤツの攻撃を紙一重で避け、素早く相手の急所に致命傷を与える。ヤツが崩れ落ちる。俺が勝利した瞬間だ。

 俺は忍者。レベル5。今の俺の日々は充実している!

 〜fin〜

エルアキによるゲームのススメ トップページ5分で読めるウィザードリィ小説>ある盗賊の憂鬱